「我が家は塾なし中学受験で志望校に合格しました!」
一般論としては、首都圏の中学受験では、塾通いが必須とされていて、それも小4から3年間の通塾が基本とか、小6では1000時間以上、費用は1年間で100万円以上かかるなどとも言われています。これでは家計への影響ももちろん、お子さんの時間的・体力的負担も大変なものです。
まだ小学生のお子さんなのだから、遅くまでの塾通いをさせずにすませたい。できるだけ他の習い事も続けさせてあげたい。
そう願うご家族の気持ちは当然のものです。
一方、塾なしで中学受験に合格したという話を聞きます。
そんなことができれば魅力的なのは間違いありませんが、誰もが通塾する中で、それを家庭で賄うことは、そんなに簡単な話なのでしょうか?
例えばお父様、お母様が勉強を見てあげられるご家庭であれば、ある程度の時期まではカバーできるでしょう。最近は質の良いインターネット講義もたくさん提供されていますので、賢く利用して通塾せずに済ませることもできるでしょう。しかしそれだけで受験を最後まで乗り切ることは可能なのでしょうか。
ここでは冷静に、けれど前向きに、塾なし中学受験の可能性について検討してみます。
塾なし中学受験の目標校は?
偏差値とは関係なく、お子さんの一番行きたい学校に行くことが、中学受験の成功であるのは言うまでもありません。
しかし一般論として塾なし中学受験を議論するには、進学先の難易度についての認識を統一しなければいけません。ここでは志望校を、一般的には家庭での対策が難しい難関校、具体的には御三家レベル、四谷大塚80偏差値で65程度以上の難関校に限定して考えます。
つまり、問題を言い換えると、「御三家レベルの中学校に、塾なし中学受験で合格できるのか」ということになります。
この答えは、
「6年の1学期までは、周囲に指導経験があって適切なテキストを使えば家庭学習可能、6年の2学期以降だけは例外なく塾に通うべき」
です。
必要となる指導力は?
塾通いが必須とされる中で、塾なしで中学受験をするのですから、他の家庭とは特別に違う指導力があることが必要になってきます。
通常はお父様かお母様が指導者となるわけですが、親御さんご自身が難関中学に合格したとか、学生時代などに中学受験の指導をした経験がある、兄や姉の中学受験を十分にフォローしつくした、など充分なノウハウがあることが前提です。
科目別にいうと、算数では小6の入試問題まで解けない問題がないこと、理社であれば知らない知識がないこと(年号などは多少忘れていても)が前提です。
家庭学習では国語の採点が一番難しいものですが、記述式の採点基準までは、ある程度判断できた方が良いでしょう。
親が予習・復習でカバーする方法も不可能ではありませんが、指導力に関連してもう一つ重要なことは、
指導者自身が「この学校なら合格できる」というイメージを持つことです。
人間は、自分がイメージできないことを実現することはできません。
指導者自身が、
「自分が受けてもこの学校には受からなそう」
と思っているようでは、指導もいずれ行き詰まることでしょう。
この点、毎年難関校への合格者をたくさん輩出している進学塾では、合格するイメージを明確に持っていますから、自信が持てない場合は素直に塾を使うほうが良いでしょう。
それでも6年2学期だけは塾通いを
受験直前期を迎えたら、どれほど指導力があってどれほど家庭学習が順調に進んできたとしても塾に通うことを強くお勧めします。
難関校であれば、どの塾でも学校別講座を開講しています。
この学校別講座が開講される受験直前期になると、各塾は、生徒の転塾を心配せずに、その塾の持つノウハウを惜しみなく教えてくれます。
特に志望校が難関校であるほど、どの塾でも威信をかけて出題傾向などの分析が行われています。家庭学習の場合、過去問の出題傾向くらいであれば分析できますが、今年の志願者数や受験者層の変化、中学受験界全体の出題傾向のトレンドなどは、塾でなければ把握できません。周りの子が持っている情報と、できるだけ格差がないようにすることが大切です。
また、直前期になるとちょっとしたスランプで親子ともに精神的に不安定になりがちです。 親がうまくフォローできれば良いですが、反抗期を迎え始めたお子さんは、素直に親のアドバイスが聞けないこともあります。
この点、塾ではこの年頃のお子さん(と保護者の方)のフォローには長けていて、塾の先生の助言なら意外に素直に聞くというケースもあります。
この時期だけは塾を上手に使って、合格に万全を期しましょう。
教材はトータルパッケージで選ぼう
さてこのように、受験直前期を除いては、難関校向け受験勉強といえども家庭学習は十分可能ですが、その際に最も重要になってくるのが、テキスト選びです。
親が分野ごとに教材をピックアップするのでは抜け落ちが出ますから、塾のカリキュラムのようにトータルパッケージになっている教材を使うのが安全です。
特に、できるだけ通塾生の持つ知識と差がつかないように、あまり癖のある教材を使わない方が安全です。この観点からは、現在一般に提供されている教材の中では、次の2つの教材のどちらかを基本とするのがお勧めです。
①四谷大塚 予習シリーズ
大手進学塾の四谷大塚が実際に塾の指導でも使っている、中学受験向けテキストです。
中学受験に必要になる知識を一冊にまとめたテキストで、
家庭学習する受験生の多くが使っている教材です。
予習シリーズは、必要な知識がよくまとまった教材ですので、
テキストに書かれていることを全て身につけられればかなりの難関校まで対応できます。
けれど、テキスト一冊渡されただけでは、なかなか使いこなすのは難しいかもしれません。
そこで四谷大塚では、予習シリーズの学習用に、
予習ナビというWeb講義を行っています。http://www.yotsuyaotsuka.com/shikumi/yoshu_navi.php
講義をWeb受講した後は、知識の定着具合をチェックする「週テスト」を受けることができます。
予習シリーズを使う場合は、テキスト単体を購入するだけでなく、予習ナビ+週テスト生に申し込むのが無難です。
2017年1月までは入会キャンペーンを行っていて、予習ナビ+週テストで、年間トータルで7万円程度で受講することができるので、検討してみると良いでしょう。
https://www.yotsuyaotsuka.com/shutest/
②通信添削のZ会
難関校向けの指導に定評のある通信添削教材です。
中学受験コースは、国算理社4科目からなる本科コースに加えて、単科コースでの国語記述講座や志望校別直前講座などの講座が充実しています。
通信添削の特長として、大手塾では後回しにされがちな記述問題の添削が非常に丁寧です。国語は当然として、理社も単純な記憶問題ではない、記述を重視した問題構成になっています。
近年の中学受験では、記述問題はどの科目にも増える傾向にありますから、記述問題への対策がきちんとできれば大きなアドバンテージになることでしょう。
受講料は、中学受験コース(4科目、本科のみ)の受講で月2万円程度、単科コースは月6000円程度になっています。単科のみの受講もできますので、通塾と併用して受講しているお子さんも多くいます。
最後に、塾なし中学受験をするにあたって気を付けることをいくつか挙げてみます。
塾なし中学受験で気を付けること①模試は必ず受けること
家庭学習を続けていると、客観的な判断材料は模試だけになります。これは必ず定期的に受けるようにしましょう。弱点をきめ細かくフォローできる家庭学習の間は、志望校の合格判定でA判定をキープしたいものです。
模試は一つの塾のものを継続して受け続けることで、自分の成績の推移がわかります。首都圏で難関校を受験するなら、ライバルが数多く集まっているサピックスオープンが最適ですので、受けておくことをお勧めします。
塾なし中学受験で気を付けること②親だからこそ冷静な目で
子供のことは親が一番良くわかっています。しかしそれが裏目に出て、客観性を失ってしまうことがあります。
例えば、子供の苦手分野を「これくらいなら」とか「今回は間違えたけれど本当はわかっているから大丈夫」などと過小評価してしまいがちです。また、通塾していないと、周りのお子さんの頑張り具合が実感できませんので、つい「うちの子はこんなに頑張っているんだから大丈夫」とも感じてしまうこともあります。
また、ご両親が優秀なお家ほど陥ってしまいがちなのが、
「反復練習は無駄だと感じて演習量を通塾生より減らしてしまう」問題です。
確かに塾は、理解の遅い子に合わせて最大公約数的に宿題を出すため、宿題は多めかもしれません。しかし、一見泥臭い反復練習にも、相応の効果がありますから、あまり軽視しない方が良いでしょう。
お父さんが灘や開成出身だった方など、難関校の合格経験があるのは大きなアドバンテージです。しかし現在は受験生の量も質も非常に上がっていますから、「自分の時代はこうすれば余裕だった」と自分の頃の経験を過信しないようにしましょう。
ここまで少し厳しいことを書いて来ましたが、できるだけ通塾をさせたくない気持ちはどのご家庭も共通です。その気持ちから塾なし中学受験を決意したのであれば、各家庭の持つリソースを冷静に判断して、その範囲内で家庭学習で賢くカバーしてあげましょう。
中学受験を成功させるためには、敵を知り、己を知ることが大事ですが、特に我が子のことになると、後者の方が難しいものです。自分が客観的でなくなってきたと思ったら、いつでもプロの指導に切り替える。これを常に念頭に置きながら、できるだけ長く家庭学習を続けて負担を軽くしてあげられると良いですね。