首都圏では、中学受験をする予定でも、通塾は小学4年生からというのが主流のようです。そこで、小学3年生までは、家庭で学習するケースが多いのですが、一方で、小学校入学と同時に塾通いを始めるお子さんも増え始めています。そうやって塾通いをする同級生を見ると、家でも中学受験向けの問題集を解かせた方が良いのではと気になるご家庭も多いのではないでしょうか。
中学受験問題などの難問に対応した問題集として、現在よく知られているのが、以下の4冊の問題集です。
・最レベ問題集(奨学社)
・トップクラス問題集(文理)
・特Aクラス問題集(英進館算数科)
・スーパーエリート問題集(文英堂)
いずれも教科書と比べるとずっと難しく、初めて手に取ると、これを小学校低学年で解くの?と驚くかもしれません。
これらの4冊の問題集、いずれも難問揃いですが、その内容や構成には少しずつ違いがあります。その違いは、これらの問題集を発行している塾や出版社の性格や理念が違いから来ているようです。
それでは、お子さんに最も適した問題集はどれでしょうか。それぞれの問題集の特徴を見ていきましょう。
最レベ問題集は、4年からの通塾を有利にするために
最レベ算数問題集小学3年―段階別
4つの問題集の中で一番よく知られているのが、最レベ問題集です。発行元の奨学社は、関西の幼児・小学校低学年向け学習教室です。特に小学受験では、関西圏の国私立の難関小学校に対して、圧倒的な合格実績を誇っています。
この奨学社という塾ですが、もともと幼児教室が中心の塾であったために、小3まででカリキュラムが終わってしまうという特徴があります。それでは小3のカリキュラムを修了したら、奨学社の生徒はどこへ行くのでしょうか。
ほとんどのお子さんは、浜学園や希学園など、関西の有名進学塾に通うことが多いようです。ですから奨学社では、それらの塾に移る際にも有利になるよう、塾より少し早めの進度で授業が行われています。
ですから最レベ問題集でも同じように、進度を早めに設定してあります。小1から和差算などの算術算を扱うなど、理解できそうな単元は大胆に前倒ししていますが、一方で、無駄に難解な先取りはしていないのがよくできたところで、教科書レベルの問題からスタートして段階的に実力が付くようにうまく構成されています。
最少の労力で多くの難問が解けるように構成された、良い問題集といえるでしょう。
トップクラス問題集は教科書の発展形として
トップクラス問題集算数小学3年―中学入試をめざす
同じく教科書レベルから始まっていて、取り組みやすいのが、トップクラス問題集です。発行元の文理という会社は、学研グループの出版社で、古くから教科書ガイドなどを出版している会社です。
このような性格から、トップクラス問題集も、教科書の単元とよく似た構成になっています。教科書の次に取り組んでも、急に難易度が上がって戸惑うといったことは少ないでしょう。
教科書レベルから応用レベルまで、それぞれの単元を着実に身につけながら先へ進むことができるように、この4つの問題集の中で一番ページ数が多い、250ページの問題集になっています。塾の応用問題のような、分野横断的な問題は少ないので、家庭で指導する際にも教えやすいでしょう。受験に必要な基本的な技法をきっちり身につけたい人に向いています。
特Aクラス問題集は難関進学塾の授業内容を詳しい解説とともに
特Aクラス問題集は、九州トップクラスの実績を誇る進学塾である英進館が発行しています。
英進館は四谷大塚の提携塾となっているため、塾の授業でも予習シリーズを使用しています。そのため、特Aクラス問題集も、予習シリーズと似たような構成になっています。
特A問題集の特長は、全ての単元に、ていねいな解説がついているところです。今回挙げた4つの応用問題集は、低学年といえども難しい問題が並んでいますので、どのように教えれば良いか迷ってしまうこともあるでしょう。そのために特A問題集では、全ての単元の初めに例題があり、塾の授業のように詳しく解説してくれています。
練習問題にも、つまづきやすいポイントや、教え方のアドバイスがたくさん載っていて、指導のマニュアルとしても使いやすくなっています。解答・解説も、お子さんが一人で読んでも理解できる内容になるように気を配られています。受験問題に対する知識がなくても、教えやすい問題集だといえます。
このように見ると、トップクラス問題集と特Aクラス問題集は、「塾で習うことと同じ内容を、家庭学習で身につける」ことを目的に作られた問題集といえるでしょう。この2冊の問題集だけは、4年生までのテキストがあることからもそれがわかります。まだ通塾はしないけれども、通塾生と同じ知識を身につけたいというご家庭では、使いやすい問題集だといえます。
塾で習えない思考力を身につけるスーパーエリート問題集
スーパーエリート問題集 算数 小学3年[新装版] (中学受験を目指す)
スーパーエリート問題集はこれまでの3冊の問題集とはちょっと傾向が違います。
こちらは、関西の進学塾である希学園と、絵で解く学習法を提唱する「どんぐり倶楽部」が協力して作った問題集です。
この問題集が作られた経緯は、「塾で解法を習うことに慣れて、自分で考える練習をしなくなった子への対策」だそうです。そのためか、手を動かすだけの計算問題はばっさり削って、思考力に特化した問題が並んでいます。
他の問題集と比べてページ数は少なく、その中でも図形分野の割合が多くなっています。また、どのジャンルの問題とも分類できない問題も多く含まれています。算数オリンピックやキッズBEEなどで最近よく見かけるようになった、いわば新しいトレンドの問題がたくさん収録されています。良問の多い問題集ともいえますが、その分教える人にも指導力が必要といえるでしょう。
また、付録として、どんぐり倶楽部の「絵解き問題集」がついています。この問題集は、実際の中学入試問題を、国語の読解問題くらいの長さの文章にアレンジしたものです。その長い問題文の中から必要な数字を読み取り、数同士の関係を絵を描いて解答を出す形式になっています。必要でない数字も入っていますから、数字の組み合わせで解いてしまうお子さんへの対策にも良いでしょう。
さてこのように、スーパーエリート問題集は、他の問題集にない問題が並んでいて、4つの問題集の中でも難易度はかなり高いといえます。解き方が素直に理解できて、学習に余裕があれば解くと良いですが、見慣れない問題で考えづらければ無理する必要はありません。
低学年の時点でこのような問題が出るのは、キッズBEEくらいではないかと思います。その意味で、キッズBEEを目指すには良い問題集です。
なぜ応用問題集を解くのか?
このように4つのドリルの傾向を見てきましたが、目的に合った問題集は見つかったでしょうか。どれも色々なメリットがあり、選びにくいですが、悩んでいる場合は、まず「何のために応用問題集を解こうとしているのか」を考えましょう。
これらの問題集は、低学年で解くには難問ばかりが揃っています。けれど、本当にその学年で解く必要があるかどうかは、一度考えてみた方が良いでしょう。
特殊算などの応用問題は、お子さんが大きくなるにつれて、自然にわかるものも多くあります。小6の中学受験の時点で解けるようになっていれば良いのですから、あまり早くから焦って解く必要はないでしょう。実際、大手塾でも本格的な指導は小4になるまで行われませんが、その方がトータルの指導時間が短くて済むと考えられているからです。
そのような、時間が経てば自然にわかることを、先取りでやらせる意味は何でしょうか。
低学年のうちに応用問題を解かせたいケースとしては、主に次の2点が考えられるでしょう。
・入塾テストや模擬テストなど、既に通塾している人と同じテストで好成績を修めたいとき
・算数オリンピック・キッズBEEを目指すとき
これらのうち、入塾テストや模試を控えて、即効性のある対策がしたければ、最レベ問題集と特A問題集が目的に合っています。
短い時間で効率良く解きたい場合は最レベ問題集が、指導力や理解力がそれほどなくても着実に力をつけたいという目的ならば、解説の詳しい特A問題集が適しているでしょう。
これとは別に、粘り強く考える力を鍛えたい、算数オリンピック・キッズBEEで予選突破を狙いたい、という目的ならスーパーエリート問題集がおすすめです。ただし、いわゆる「あと伸び型」問題集ですので、力が付いたと実感できるのはしばらくしてからになるかもしれません。焦らないように取り組みましょう。
それらの具体的な予定がなく、ゴールは中学受験本番で、そのために「なんとなく今から応用力を身につけておいた方が良さそうだから」と考えているのであれば、今はまだ、無理に手を出さなくてもよいでしょう。
中学受験をするなら塾に通わなければいけない、塾に通うなら上のクラスから始めなくちゃいけない、上のクラスに入るためには家庭学習しなければいけない…と漠然とした不安があるだけなら、あまり焦る必要はありません。
応用問題が解けるかどうかは、国語力にも関係しています。低学年男子に多いですが、計算は得意だけれど、文章題は苦手という子もいます。このような場合は、国語力がつくまで応用問題には無理に手を出さず、公文などで計算分野の先取りをしておくのも一つの方法です。
このように、低学年向けの応用問題集には、今はまだ解けなくてもかまわない問題も多く含まれています。中学受験本番まではまだ長い時間があります。低学年のうちから応用問題に取り組む時には、「まだ解けなくても大丈夫」と心に余裕を持って学習を進めてあげましょう。